熊本でのエイズ学会で口頭発表しました。

 先週の新聞切り抜きからご紹介するブログですが、先週、あまり取り上げて面白い記事がなかったようです。
 そこで、先週、出張で行った「第27回 日本エイズ学会」で、パープル・ハンズとして行なった演題発表(分科会での発表)をここに掲載しておこうと思います。
 熊本で開催された今年の学会、最終日はくまモンも来場して、話題を集めました。

 エイズ学会は、基礎医学・生物の研究者やお医者さんだけの学会ではなく、HIV陽性者をサポートするNGOや、さらに陽性者自身も参加するのが特長の、ユニークな学会です(陽性者が参加するためのスカラシップ=交通費の補助や学会会費の免除などもあり)。
 シンポジウムなど大きなプログラムのほか、いろいろな分科会があり、そのなかの「HIV陽性者支援」の分科会で、私たちは昨年から口頭発表(発表8分、質疑2分)をエントリーして、採択してもらっています。
 
 というのも、以前なら感染して若いうちに亡くなっていた陽性者が、薬をはじめとするHIV医療の発達で長期延命でき、HIVを抱えたまま高齢期へ突入する、という事態もフツーにあるようになったからです。また、高齢期でも性行動はあります。高齢期になって感染してくるということも、これまたフツーにあるのです。
 そうした高齢のHIV陽性者さんーーそしてその多くはゲイ・バイ男性ーーをどうサポートするかが今、各地のエイズ拠点病院などでも課題になっています。服薬の長期化のせいなのか、HIV関連の認知症も問題となっており、いっそうそうした人びとのサポートが課題です。

 ここでは、パープル・ハンズ事務局長の永易至文が口頭発表した原稿を掲載して、性的マイノリティとHIV/エイズの問題を考える、その一端をご紹介してみたいと思います。

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HIV陽性者のライフプランニング支援のニーズと実際

 今年も演題のご採択、ありがとうございました。
 きょうは4つのことをお話してみたいと思います。

 昨年のエイズ学会(横浜)には、長期療養、そして陽性者高齢化の実情を反映して、高齢陽性者の支援や生涯にわたるライフプランニングに関する報告が複数あったことがその一つ目です。なかでも名古屋医療センターのみなさまの、7年にわたる支援の報告は大変興味深いものでした。
 65歳で陽性判明、離婚して独居、もともと子どもおらず、というあたりで、私などは「ははーん」と思うわけですが、多分にMSM*のかたなのでしょう。そしてお定まりの「親族とは疎遠、現在、生活保護受給中」。脳梗塞後遺症と前立腺肥大で要支援2で介護中。71歳のときに心筋梗塞。現在、医療センターが軸となり地域病院と地域の訪問介護ステーションとの3者の連携で療養を支えているという患者の姿は、私もMSMと名づけられるものの一人として、まことに身に迫るものがありました。MSMが多くをしめるHIV陽性者の、そのボリュームゾーンが、今どの年齢層かわかりませんが、4、50代の陽性者の20年後の姿がここにあると思います。

 *MSM=Men who have sex with men 男性とセックスする男性
ゲイというアイデンティティの言葉を使うと、「自分、ゲイとかホモとかじゃない、ただ遊びで男とヤッテるだけ」という方もいます。そうした人びとにも届く啓発や対策をどう考えるか。そこで考え出されたのが、ゲイなどアイデンティティの言葉ではなく、行動形態に着目したMSMという概念です。HIVの現場ではこちらがよく使われます。


 これを受けて2つめですが、こうした高齢期の困難に陥る陽性者をまえに、ソーシャルワーカーなど支援者にとっても、そして陽性者自身にとっても、新しい課題が付け加わったな、ということです。ワーカーは感染がわかった陽性者を障害者手帳**につないで一丁上がり、ではない!------まあ、そんな安易なワーカーはいないと思いますが、今後高齢期まで生涯にわたり患者と伴走することが課題となってきた。陽性者自身も、名古屋の報告は多少強烈ですが、だれもが感染後の状況が落ちついたところで、長期のライフプランということを視野に入れながら療養を組み立てていく時代になったのだな、ということです。
 その一助として、昨年の演題で私たちは、同性愛者のためのライフプランニング研究会、略称LP研という小さな取り組みについて報告させていただきました。LP研は、同性愛者の視点で〈暮らし・お金・老後〉について、現在の法や制度についての情報を収集・整理したり、すでに高齢期にあるゲイの先輩の話を聞いたり、仲間づくりをする活動です。また、その知識をまとめた「にじ色ライフプランニング入門」という本もご紹介させていただきました。
 私どもでは一貫して、当事者の足腰強化のための活動を続けています。コミュニティには当事者の士業者や専門家も多く、彼らに当事者の視点からの問題提起をしてもらうなど、ピアエデュケーション(相互の学び合い)として運営しているつもりです。
 そして、HIV陽性者の多くがMSM、ゲイ・バイ男性とも重なることから、LP研としてHIV陽性者の〈暮らし・お金・老後〉の総合的な支援を考えたい、と昨年表明したしだいです。

 **障害者手帳
 HIV感染症は現在、内部障害として障害者認定の対象となっており、手帳が出ることで、医療費の助成などさまざまな福祉施策が受けられるようになっています。ソーシャルワーカーはまず、医療の継続のために患者の障害者手帳取得のサポートを行ないます。


 ところで、LP研で考えている同性愛者のライフプランニング上の悩みとはどんなものでしょうか。3つ目のトピックとして、私(永易)が今年7月、雑誌『アエラ』(2013年7月1日号、朝日新聞社)に寄稿した記事をもとに少しお話させていただきます(資料コピー配布)。
 この記事では、LP研の様子を紹介しながら、何組かの40代以上のゲイやレズビアンにインタビューをしました。
 右のページでは、LP研での「60代のゲイに話を聞く」という企画にずいぶん大勢が集まった、という話です。60代で、結婚せずゲイとしてこれまで生き、前向きな意識をもって話をしてくれるゲイは数が少ない。さらに、この人は20歳年上の相手と40年のパートナーシップを続けている。80代になるお相手さんもお相手さんですが、こういう「金婚式が近い両親の話を成人した息子・娘たちが楽しく聞かせてもらう」というような家族的な機会は、性的マイノリティの場合、絶無といってよい。だからこれだけ参加者が集まったのだということを、ストレートのかたは想像してみてください。性的マイノリティには人生のロールモデルがない、という問題がこれです。
 つぎに、破局であれ死別であれ、一人になるときのことを、多くのゲイが心配ごととしてあげています。右ページ下、NHKの「漂流老人」の番組を見て心配する声、また次ページのレズビアンカップルの声がそれです。ビアンカップルが述べているように、既存の家族像にあてはまらない性的マイノリティの姿は、遺言相談などに訪れた弁護士など専門家にさえ理解されなかった経験にもご注意ください。これが現状です。
 遺言など死の場面から手前に時間を戻せば、発病や介護・看護の問題があります。左ページ2段目からのゲイは、発病時に病院でのパートナーの面会権や、HIVポジティブの人がこれから介護や高齢期医療の場でどう扱われるのかについて、不安を述べています。
 その下の2段では、かつてLP研でも講演した介護医療コンサルタントが、「家族がいない性的マイノリティはもともと介護力の持ち合わせに乏しい人たちだ」という認識を語ります。サービス付き高齢者住宅や地域包括ケアシステムなど、高齢者を取り巻く行政の政策や地域の状況は現在、刻々と変わりつつありますが、とはいえ、そのなかにゲイなど性的マイノリティの居場所はあるのか? ひたひたとその不安感は募ります。

 では、どうしたらいいというのでしょう。 
 もちろん、単身高齢者、「おひとりさまの老後」という問題は、いまや社会全体の問題です。しかし、「社会みんなの問題でしょ」と言ったとたん、人は自分の問題でなくなるんですね。ちょうど、「HIVは誰でも感染する可能性があります」という言い方をすると、「ああ、他人事だな」と思うのと一緒です。
 でも、年をとるのは自分です。おひとりさまの老後とは、ほかでもない、自分の明日のことなんだ、と腹を括って向き合う。ひとりで見るのが怖ければ、みんなで一緒に見よう。
 ということで、私たちはLP研のネットワークをもとに、仲間とともに今年、「特定非営利活動法人パープル・ハンズ」というNPOを設立したことを4つめのトピックとさせていただきます。
 パープルでは、従来の同性愛者対象から性的マイノリティおよび多様なライフスタイルを生きる人びとへ、その主体概念を広げました。
 そして定款にかかげた活動の目的は、「ライフスタイルの形態や年齢、財力、疾病や障がいの有無にかかわらず、生涯にわたって住み慣れた場所で、快適で安心できる暮らしを送るため」の学び合いや助け合いであり、それにより、「多様性が尊重されるとともに、孤立の帰結としての孤独死のない社会の実現に寄与する」ことを目的としています。
 ここに言う「疾病や障がいの有無にかかわらず」とは、性的マイノリティ(具体的にはゲイバイ男性)に局在流行中のHIV感染症を強く、強く、意識した文言です。
 具体的活動としては、従来からの学び合いの場としてのLP研に加え、お茶会形式のパープル・カフェ、暮らしや老後の電話相談、そしてこうした学会発表を含む連携・発信です。
 また、これは会員入会者へのプレゼントというかたちですが、「緊急連絡先カード」と「緊急時の面会カード」の普及をはかっています。発病時の心配をする人が多いなか、心配するまえに、お金をかけなくても、今すぐできることをしてみようという趣旨です。どういうカードかということのくわしくは、お手もとの資料をご参照ください。
 
 最後にまとめとして、まず陽性者----そして陽性/陰性にかかわらずMSMのかたに呼びかけたいのは、老いの問題から目を背けずに、ご一緒に手を取り合いませんか、ということです。社会や行政に「LGBTに目を向けよ、MSMに目を向けよ」と言うなら、ご自身も自分の老後に目を向けよう。それは多分「しょっぱい」味がすると思います。でも現実に向きあうことで確実なつぎの一手が編み出せると私は信じています。
 この国で同性婚より自分の老後のほうが先に来ると思う人は、ぜひ、ご一緒に手をつなぎましょう。
 つぎにソーシャルワーカーや陽性者の周囲のかた、支援者のかた。高齢の陽性者も現れているいま、ライフプランニングという言葉を補助線に、医療や福祉にとどまらないもう少し広い範囲で、ご一緒に支援の課題を考えられないでしょうか。HIV業界では新参者の私ですが、ご一緒に研究会や事例検討会などができたらいい、と思っています。志あるかたの、もちろん陽性者ご自身も含めて、ご連絡おまちしています。

 ということで、以上で今回のご報告とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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